「落書き」と「グラフィティ」

『Piece by Piece』を絶賛した矢先なのだが・・・南後由和くんとともに、落書き対策研究の第一人者である武蔵工業大学小林茂雄助教授の研究室を訪ねた。落書き問題がワイドショーで取り上げられると、小林先生のコメントが紹介されることが珍しくない。専門はあくまでも「落書き」だけれども、「グラフィティ」にも非常に造詣が深い。僕たちが2004年、グラフィティに関する調査研究を始めてすぐに、小林先生の名前に行き着いたのだが、ちょうどそのころ、先生は客員研究員としてラスベガスにいらっしゃったため、お話をうかがう機会を逸してしまっていた。

改めて言うまでもなく、文化としての「グラフィティ」と社会問題としての「落書き」は、同一の都市現象をまなざしているにも関わらず、互いにまったく異なる文脈で語られてきており、双方を包括する状況認識や提言はこれまで皆無であったといってよい(仮に小林先生がテレビの取材でグラフィティ文化に言及しても、それは必ずといいほどカットされる運命にある)。しかし、トニー・ベネットがいうようにポピュラー文化は、「ふたつの分離した区画―純粋で自発的な『人びと』の対抗的文化と、全面的に『人びとのための』行政的文化―からなっているわけではない」*1。「グラフィティ」と「落書き」が、たとえば「リーガル・ウォール」を介して交叉するところの矛盾的志向は、とても興味深い(しかし残念ながら今のところ、あまり展望のある話ではない)。

ちなみに小林先生は、ご帰国以来、落書き対策研究の一線からは退いていらっしゃって、現在は照明環境整備を重点的に研究していらっしゃるとのこと。もうすぐ『日本建築学会環境系論文集』に掲載される「落書き防止対策としての壁画制作に関する研究」という論文とともに、「キャンパスイルミネーション2006+八尾・五箇山ライトアップ」というDVDを頂戴した。感謝。

*1:ジャズシンガーではない。T. Bennett "The Politics of 'the popular' and 'popular culture' " in T. Bennett, C. Mercer and J. Wollacott (eds) Popular Culture and Social Relations, Open University Press, 1986.