捏造の現場

僕がまだ工学部の学生だった7年ほど前、知り合いの紹介で、日曜夜の情報番組の企画に協力を依頼されたことがある。呼び出されたのは西新宿の雑居ビルにある貸会議室で、その場を仕切っていたのは制作会社のディレクターだった。テレビ局の正社員はいない。その場である実験をおこなったのだが、しかし番組の企画趣旨にそぐわない結果が出てしまった。ディレクターは結果を捏造することを提案した。僕は無言のまま席を立って、スタッフの制止を振り切って帰ったのだった。

やがてメディア論を専攻することになるとは、そのときは思ってもみなかったが、僕が今、送り手のメディア・リテラシーについて授業で語ったり、あるいは一人で考えたりするとき、この一件が忘れがたい原体験として、いつも想起される。